お知らせ

【新著紹介】言語文化学科 吉田 孝夫

  • 研究

【新著紹介】

『グリム ドイツ伝説集』(グリム兄弟(編著)、吉田孝夫(訳)、八坂書房、2021年11月)
言語文化学科ヨーロッパ・アメリカ言語文化学コース
吉田 孝夫

ドイツのグリム兄弟が著した『ドイツ伝説集』の全訳を出版しました(八坂書房刊)。19世紀の初頭、有名な『童話集』とまったく同時期にまとめられた、世界の民話研究の基本的文献です。「童話(メルヘン)」と「伝説(ザーゲ)」とが、物語のタイプとしてどう重なり、どう異なるかを、グリム兄弟自らが説明する長めの文章が巻頭にあり、物語が人生の旅の道づれとして、いつも人間に寄り添っていることの意味を問いかけています。「童話」は、どことも知れない夢の国で、想像力を奔放にはたらかせながら生まれるものですが、それに対して「伝説」は、自分が現実として生きているこの土地、この風土と歴史とに対する人間的な思いを伝えます。つまり喜び、怒り、哀しみ、願い、迷いなど、人間の心の要素と、実在する風土との重なり合いがとても味わい深い。ドイツの古い町を舞台とする、あの不思議な「ハーメルンの笛吹き男」の物語も、この伝説集のなかにあります。

ちなみに、この大著の翻訳作業は過酷をきわめました。とうとう首と肩の激痛に苛まれるにいたったわたくしは、人生初のMRI検査を経験することに。あたかも宇宙飛行士のごとく、あの狭い空洞のなかに閉じこめられる時間はなかなかコワかったのですが、いやいや、民話研究のパイオニアであったグリムさんたちのご苦労と比べれば、なんのこれしき。最新鋭の医療機器の内部に身を横たえながら、わたくしはあらためてドイツの古えの人びとの生きざまに、そしてこの膨大かつ綿密なる記録を後世に伝えようと決意した、グリム兄弟たちの情熱に、じっと思いをはせておりました。