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ヨーロッパアメリカ言語文化学コース 笹本涼子(言語学・英語学)

  • 研究

ことば・推論・コミュニケーション

「ことば」をコミュニケーションの観点から見ると、思いがけない発見がたくさんある。例えば、That’s interesting は字義通りに取ると「相手に興味を持ってもらえた」と解釈するが、実は「どうでもいい、さっさと次にうつろう」と思われている場合が少なくない。話し手の意図をきちんと理解するために、私たちはことばだけでなく表情や声色、社会的ルールなどその他の文脈情報を考慮しながら推論をしているのだ。

コミュニケーションのさまざまな側面

また、人間のすぐれた推論能力のおかげで、コミュニケーションはことばを超えて成立する。例えば、「ドライヤーが壊れた」ということを伝えるために「ドライヤーが壊れたよ」とことばを使って伝えることもできるし、壊れたドライヤーを相手に提示することもできる。前者を meaning(「言う」コミュニケーション)、後者を showing(「提示する」コミュニケーション)といい、近年の語用論研究で注目を集めている。また、人間には「類似」を使って意図を伝えるという認知能力がある。

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その中でも最近注目を集めているのが「オノマトペ」という現象である。例えば、犬が鳴く音を英語でbow wowというが、これは犬の鳴き声を人間の「類似した音」で表したものだ。これは音同士の類似だが、他の感覚の経験を音で表すこともできる。例えば、滑らかな手触りのものを説明するためにつかう「さらさら」というオノマトペは、触感をそれに「類似する音」で表しているのだ。このように、人間は感覚の境界を超えさまざまなツールを駆使して意図を伝えるのである。

感情・感覚のコミュニケーション

人間はことばだけでなく、非言語表現を使い言葉に表しずらい感覚や感情も伝えることのできる推論能力を持っている。そのような表現には上で述べた言語と非言語の境界線にあると考えられているオノマトペなどもあるし、また、イメージを元にした絵文字・スタンプなどがある。

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例えば、「さっと茹でる」と「ごく短時間茹でる」は字義通りにはほぼ同じ意味であるが、伝わってくる印象が異なる。また、同じことをことばで書いていても共起する絵文字が異なるだけで全く意味が異なってくる。語用論とはこのような「表現」がわたしたちの推論過程で果たす役割について研究する分野である。

人は見た目で判断する

コミュニケーションというのはマルチモーダルであり、ことばだけでなく、視聴覚を通じた情報が重要な役割を果たすと考えられている。

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たとえば、普段の会話でも声や表情、仕草などの「パラ言語」によって発話の解釈が変わるが、さらに、色やデザインなどの見た目も同様の働きをする。例えば、テレビを見てみるとテロップがさまざまな色・デザインで出てくるが、ここで、「なんでやねん!」という関西でよく使われる表現が大きな文字、それもどす黒い赤色で書かれていたら話者が怒っていると解釈するだろう。しかし同じ表現が丸文字で、薄い色で小さく書かれていたらなんとも自信がなさそうな様子が伝わってくる。「見た目」によってことば以上のものが伝達されているのだ。これは人間には、ことばやことば以外で伝達された話者の意図を適切に理解することのできる推論能力があるから可能になっているのである。

言語学・英語学と経験的手法

コミュニケーションの研究にはさまざまな手法が使われる。言語学では従来、言語使用についての緻密な分析が行われてきた。それに加え近年では、映像翻訳学やレセプション研究の経験的手法が取り入れられてきている。私の研究でもマルチモーダル分析やアイトラッキングテクノロジーも取り入れることにより、理論分析に裏付けられた実証的手法でコミュニケーションの本質を明らかにしようと試みている。

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特に、ソーシャルメディアやマンガ、テレビなど、我々言語使用者が日常的に接する言語・非言語コミュニケーションの事象について、理論とデータ両方に裏付けられた分析を心がけている。そのように理論分析に裏付けられた実証的手法をとってこれまで発表した研究書には人間がどのようにオノマトペを使うのか、オノマトペは何を伝達するのかを語用論的立場から考察したOnomatopoeia and Relevance、テロップなど「画面の文字」についてその認知解釈過程のみならずSNSでの文字の使われ方を論じたRelevance and Text-on-Screen in Audiovisual Translationがある。

拙著1 ‘Onomatopoeia and Relevance’
拙著2 ‘Relevance and Text-on-Screen in
Audiovisual Translation’
アイトラッキング技術を用いたテロップについての研究